「再充填(リロード)完了。そうだよね、白斗くん?」 そう告げた次の瞬間、周囲の半透明の人形群が全て同時に消え去っていく。 そして視界内に唐突に現れる、木刀を手にした一人の少年と、その足元に横たわる先ほどまで自身が挑発気味に話していた相手。 まるでそこで何かが起きた部分だけ、時間が切り取られたかのように。 「うんうん。それでこそ私が見込んだ『切り札(ラストカード)』。……お疲れさま」 協会支部長は遠くの弟子(せいと)を眺め、満足げな笑み交じりに息を吐いた。 白斗が意識を失った相手の頭上に立った途端、自身が使用した時間停止の効力がちょうど終了し、視界の遠くで数人の人影が動き出すのが見えた。 「……」 いくら人形が自立行動する類のものであるとはいえ、その大本は審査官(テスター)自身の『ゲンガーコロニー』だ、使用者本人が意識を失えば展開された人形もその形状を保ってはいられないだろう。 そんな事を無意識の内に考えながらその場を離れようとすると、ふと現在位置が車道のど真ん中である事を思い出した。 このまま放置すると、足元で転がっている人物はまだ効果が継続中の方の時間停止が切れた瞬間に往来する車に轢かれる事になりそうだった。 ぶん殴ってから一向に反応が無いため、死んでないといいなと頭の片隅で思いつつ、ピクリとも動かない白衣の男を背負うようにして路肩まで運んでいく。 「あれ? 何だよこれ? もしかして終わった?」 車道上の人形百体が全て同時に溶けていくというある意味シュールな光景を見渡しながら、光輝が困惑気味に目を丸くした。 その隣では悠が疲れたように歩道に座り込み、そこに人格を元に戻した葵が駆け寄っていた。 「そのようだな。……アイツが最後の最後で持っていく、か。まあいい。これで終了だ。秋津が言っていた通り、この数日の騒ぎそのものがな」 皮肉げにそう言う彼は、舌打ちしながら数メートルほど離れた少年へと近づいていく。 「貸せ。そこまで丁寧に運んでやる必要も無いだろう」 ふと白斗が背負っていた審査官(テスター)の身体が軽くなったかと思うと、隣に紫苑が現れた紫苑が気絶した人物の身体を掴み、アスファルトの上を無理やり引きずっていく。 白斗と紫苑が路肩に上がった瞬間、現在の世界を止めているクオリアが解け、全てが動きを取り戻した。 周囲の人や車の往来も再開する中、歩道の目立たない一画に全員が集まった。 特に衣服がボロボロな紫苑が周囲の通行人の視線を引くが、彼が無言で睨み付けると同時に皆そそくさと去っていく。 そしてそれからすぐ、バシュン、と音を立てて、半透明な幽霊の姿が葵の傍らに現れた。 「……どうするんだ、これ」 よほど一撃が重かったのか、この期に及んでも目を覚まさない相手を見つめつつ白斗はつぶやくように言う。 「さぁな。こいつの派遣元に苦情を入れた上で判断を待つだけだ。だが、目を覚ましてまた暴れられても面倒だ。文字通り今息の根を止めておくのが賢明かもしれんがな」 紫苑が口の端に笑みを浮かべながらそう言った瞬間、周囲に誰かの携帯電話のメロディが鳴り響いた。すぐに秋津さんがポケットから取り出したそれを耳元に当てる。 彼女は数言ほど短く応答をすると、すぐに携帯電話を閉じてこう言った。 「ええっとねー、その人を追いかけていた本部の人が、今日中にこの街に到着するって。だから後は私と紫苑くんでどうにかしておくから、みんなはもう帰りなさい。詳しい事はまた明日!」 「クレア! 大丈夫なの!?」 突如どこからともなく現れた人影を、葵が珍しく心底心配そうに見つめる。 『ああ。心配をかけたな。どこも特に異常は無い。一時的に外に出られなくなっていただけだ。……まあ、原因は結局分からんがな』 「……それ、多分だけど分かる気がする」 地面に座り込んだまま、悠が頭上の幽霊を見上げた。 「時間停止の基本的なルールは、時が止まっている対象は動く事が出来ない。審査官(テスター)がその存在を知らないクレアは当然動けない。だから外に現れる事は出来なかった。でも、クレアは葵と身体を共有している。そしてその葵は動く事を許可されていた。ここから考えると……」 『葵の内側で共有されている私の意識は葵の中に残るが、許可されていないので外に出る事は出来なかった……か?』 「そう。さっきふと思った。……もうどうでもいいけど」 ここにきて一気に疲労が限界に達したのか、立ち上がろうともせずに地面にへたり込んだまま悠が荒い息を吐いた。 「って、おい、悠、お前本当に大丈夫かよ? 肩貸すか?」 「……大丈夫……。……じゃない。お願いする」 観念したかのようにため息をつき、右手を光輝の肩に回す。 「……」 白斗が自分も悠を支えようと踏み出そうとした瞬間、足がふらついて転びそうになり、体勢を無理やり気力だけで立て直す。 考えてみれば今日だけで何度も全力で走ったり、長時間歩きまわったり、重い木刀を振り回したりと、まるで一週間分の運動量をまとめてこなしたかのようで、はっきり言ってクタクタだった。 「明日は……土曜日か……」 翌日の授業が午前中だけで終了する事と、お互いに何度も時を止めていたせいで実際の時刻はまだ午後八時半前である事だけが救いだった。 それでも、遅刻せずに無事に授業に出席できるかどうかまでは自信が無かったが。 とりあえず、今日はとっとと寝よう。白斗はそう思った。 その翌日、土曜日の放課後。 流石にあの疲れは一晩では取れず、授業時間の全てをそれはもう遠慮なく睡眠に費やして過ごしていた白斗は、帰りのホームルーム終了後に近くの席から響いてくるうめき声で目が覚めた。 「見つからねぇ……」 「何が」 机に突っ伏している山寺に、何の気無しに聞いてみる。 「何が、ってそりゃお前……魔人、ソウルジャグラーがだよ!!」 その瞬間彼はガバッと飛び起き、拳を握りしめながら絶叫する。 「ここんとこ毎日探してんのに見つからねぇ……商店街奥の跡地に現れるって情報、そもそもガセだったのか……?」 「……。あの魔人は、就職先を見つけたらしい」 「……は?」 意味が分からないと言うかのように目を白黒させるクラスメイトに気付かれないように、視線をそっと教室前方へと向ける。 そこには携帯電話を真剣に覗き込んでいる葵と、決して他人の目には見えない幽霊の姿が。 それから彼女は満面の笑みで手早く自身の荷物をまとめると、すぐさま教室を飛び出していった。 「心底気に入った、とあるわがままな人間の配下。そいつにずっと付いていくって決めたらしい。だから、商店街の奥のあの場所にはもう現れない……と思う」 「は? お前何か知って……ちょ、知ってんなら教えろって独り占めすんな、って、おい!」 やはり目を白黒させたままの彼にそれだけ告げ、背後から追ってくる声にも構わず白斗は教室を後にした。 「なー津堂よー」 ホームルームが終わった途端、それまでずっと静かだった時雨が意を決したかのように前の席から身を乗り出してきた。 教科書類をカバンの中にしまい込む手を止め、悠は視線を前に向けた。 「何」 「最初はメールにしようとしたけどよ、性に合わねーからやっぱ直接言う事にするわ。最近お前さん何か悩んでるみたいだけどよ、」 ふとそこで、昨日の晩に『覗き見た』メールの文面の事だと思い当たった。 「別に何でもない。そして光輝は関係ない。あと、下着は買いに行かない」 一気にそう告げると、相手は目をパチクリさせた。 「……。お前さん、なんでその事知ってんだよ? っかしーな、あのメールまだ送ってねーぞ……?」 「あー、悠さんってば最近人の心が読める超能力に目覚めてて……」 脇から光輝が何やら訳の分からないフォローをしていたが、それよりも。 「ただ、もう大丈夫。悩みごとはもう片付いたから」 そう言って手にしたカバンを抱え直し、二人に背を向けた悠はふとある事を思い出し、歩みを止めた。 「そうそう。しばらくバイトも入ってないから、午後は一緒に例のケーキ食べ直しに行ってもいいけど。この前は私の都合で抜けたから、その埋め合わせで全部おごる」 その瞬間、目をパチクリさせ続けていた時雨の表情がそのまま固まった。 「……?」 それから彼女は教室の隅まで光輝を引っ張っていき、彼の耳に何かをささやく。 動揺しているのか、悠の位置からも全く問題なく聞き取れる声量ではあったが。 「……なー光輝、津堂の奴、何か悪いモンでも食ったんじゃねーのか? こんなに愛想良かった事、今までにあったか……? いつもあんなに素っ気ねーのに……」 「だよなぁ。多分この後、代償として冷酷無慈悲に休み無しでコキ使われるとか? 悠さんってば実は割とサドっ気があるから、それはもう上から目線で奴隷のような扱いを……」 悪乗りして時雨に適当な事を吹き込み始めた相方に視線を送ると、彼は慌てて自身の軽そうな手荷物を抱えて教室の出入り口まで向かっていく。 「とっ、とにかく行こうぜ! 今日は悠のおごりだしな!」 「あなたは自分で払って」 短くそう告げ、悠は意気揚々と駆けていく光輝、そして頭に疑問符を浮かべつつもそれに続く時雨、二人の背中を追い始めた。 「どうした少年。何やら心底疲れたような顔をしているではないか」 いつもの建物の外付けの階段に足をかけた白斗の頭上から、何やら怪しげな能力の勧誘をしてきそうな声が響いてきた。 その通り心底疲れてる、だから帰ってくれ、と言う代わりにその人物を見上げる。 「我が輩もこの中に入ろうとしたのだがな、あのお嬢さんに騒ぎになるからやめてくれと頼まれてな」 葵がそんな常識のある発言をするだろうかと不気味に思ったが、一瞬経ってからそれはクレアの事であると気付いて安堵した。 「はっはっは、魔人の威容はちとばかりそこらの人間にはキツいものがある、か。確かにそれは自明であるな」 何やら上機嫌に髭を撫でる魔人を無視し、そのまま階段を上っていく。 葵やクレアの言う事を聞く気があるのなら、そうそう簡単にソウルを配り歩いたりはしないだろう。 「そう言えば、あの少女がこのような事を言っておったぞ」 「?」 相手は髭を撫でながら、何かを思い出すかのようにうなった。 「ほれ、昨日魔界の偉大な生物であるリバイアサンが、このちっぽけな地上を蹂躙しようとしていた時の事だ」 「……」 アンタはいちいち魔界を称賛しなければ気が済まないのかと言おうとして、面倒だったのでやめた。 「……」 今しがたソウルジャグラーから告げられた話の意味を考えつつも、白斗は魔人を振り切って室内に足を踏み入れた。 そこにはいつものように十数人もの見知らぬ学生が集まり、好き勝手に飲み食いをしていた。 そして学生集団から離れるように、部屋の隅のソファに腰かけているのは―― 携帯電話を首で挟み込むようにしながら片耳に当て、空いた手で端末に何かを打ち込んでいる、白衣を着た男。 「……っ!」 とっさにカバンから木刀を取り出そうとするが、すぐにその人物が昨日までの人物とは別人であることに気が付いた。 「……?」 彼はすぐに携帯電話を閉じると、同じく集団から離れた位置で腕を組み壁に寄り掛かっている紫苑へと近づいていき、二人は話し込み始めた。 周囲の学生集団による騒音が酷いせいで全く聞き取れないが、何やら大事な事を話しているのは確かであるらしかった。 視線をそのまま受付へと向ける。 そこで身を乗り出すようにしつつ、片手に食べかけだったのか歯形が付いたせんべいを掴み、秋津さんと話している人影は―― 「じゃ、君のクオリアは『ソウル』って事で本部に申請出しておいたからねー。これで葵ちゃんも晴れてこっち側! ようこそ、協会の裏側へ!」 「……は?」 二人の隣で背後霊がいつものようにため息をついていた。 暴走した海皇、リバイアサンの精神空間内。 そこに立つ葵に、背後からソウルジャグラーが語り掛ける。 『……だが、恐怖心は全く感じられないな。もし今の弱った君が海皇を従えるのに失敗したら、間違いなく死ぬのだぞ? それをまさか理解していないわけではあるまいて。何がそこまで君を駆り立てるのだ?』 『そんなの、決まってるじゃない。あたしはね、気に入らないのよ』 『……ほう?』 予想外な返答に、魔人は思わず目を丸くした。 『あたしの身近に、三人の奴らがいるのよ。あたしも含めて四人でいっつも一緒に馬鹿やってるのに、こういう危ない事に関してはあたしだけのけ者にされてて、毎日ムズムズしてたの』 『……』 葵のつぶやきに、髭に手を当てたまま魔人は無言で耳を傾けていた。 『代わりに戦ってくれるクレアはいるけど、あたし自身には何もなかった』 その時、どこからか地響きのようなものが聞こえ、それから異音はすぐに収まった。 『……この精神世界を構築する核である海皇の暴走がいよいよ末期に突入しておるな。もう余り猶予は無いぞ、少女よ』 魔人のその言葉を気にしつつも、葵は続けた。 『だから欲しかった力を手に入れた今、海皇だろうが魔獣だろうがリバイアちゃんだろうが、むしろドンと来いなのよ。それにせっかくそういう力をもらったんだから、使わないと損じゃない』 『……ほう』 葵の吐き出した言葉に、魔人は実に満足げに髭を撫でた。 『なるほど、我が輩の目に狂いは無かったようだ。これからも喜んで君に付き従おうではないか』 「……」 なるほどそう来たか、と白斗が心中でつぶやいている間にも、秋津さんの話は続く。 「葵ちゃんのそのクオリア、一連の騒動を上に報告したところで隠し切れなくなっちゃってねー。だったらこの際、君も一緒に登録しちゃおう、ってねー」 『……ところで今大っぴらにその話をしても大丈夫なのか……? ほら、外部の奴らも室内にいるんだぞ……?』 背後へと目をやりながら思わず声を潜めるクレアのつぶやきは葵にも秋津さんにも聞こえず、その二人よりも離れた位置に立つ白斗の耳にだけは届いた。もちろん特にフォローなどする気は無かったので、その場にただ立ち尽くす。 最も、周囲の学生集団はそれぞれ思い思いの事をしており、受付での会話に興味があるものは誰一人としていなさそうであったが。 「ま、あくまで特別待遇だけどねー。謎が多いそのクオリア、ソウルを調べる名目で、しばらくここの支部に身を置いてもらうって事で!」 その瞬間葵の身体が大きく震え、片手で握りしめていたせんべいを粉々に粉砕すると同時に奇声をあげ、室内の視線を一手に集めた。 「……」 先ほどの魔人の言葉などから白斗が判断するに、これこそが葵の待ち望んでいた『結末』なのであろう。 「と、いうわけで! んっふっふー、さっそく葵ちゃんにやってもらいたい大事な『お仕事』があるんだよねー」 「へぇ! なになに!? どんなものでもどんと来いよ! 何をすればいいの? 世界を裏から動かすとか、全人類を救済するとか、とにかく大きい事!」 「うんうん、やる気十分! そんな君にはこれかなー」 面白そうに笑みを浮かべた秋津さんは、鼻息を荒くした葵に一枚の紙を提示した。 どうやら便利屋業務の指示書らしい。 「……へ?」 『……迷子のペット探し?』 呆然とした葵に代わって、クレアがその内容を読み上げた。 「正式な協会のお仕事要員に組み込まれたんなら、こっちも手伝ってもらわないとねー。ほら、他の三人もやってるじゃない? まあ、悠ちゃんからは「今日は絶対やらない」ってさっきメールが来てたけど」 「なぬー!? あたしが求めてるのはこんなのじゃないんだってば! もっとカッコ良く世界を救うとか何とかかんとか!」 手にした紙を振り回しながら受付で何かを喚いている葵だったが、秋津さんににべもなく追い払われる。 「はいはーい。後ろがつかえてるんだから、早くどいたどいたー」 ……。 そして受付にて何故か葵の背後に立っていたのは、苦虫を噛み潰した顔の人物。 「……」 「おっ、珍しい。……じゃあ、紫苑くんにはこのお仕事っ」 何やら秋津さんが元気良く、紫苑の鼻先にも一枚の紙を突き付けていた。 「五丁目のトメさんの肩叩き、なんかどう?」 「知るか。……それよりもだな、」 「じゃあその二つ隣のシゲさんの話相手でもやってみる? シゲさん耳が遠いらしいから、大きな声で元気よくはきはきと笑顔も忘れずに――あべしっ」 今しがた渡された指示書をクシャクシャに丸め、眼前の相手へと投げつける。 「そんな事はどうでもいい。俺が言いたいのは――」 「あれ? 気に入らなかった? でもまあ偉い偉いついに紫苑くんも便利屋のお仕事する気になったんだねー。というわけでとりあえずはその根暗で陰湿で残虐な性格を直すために他人との関わり合いを交えて――ひでぶっ」 紫苑は無言で秋津さんを張り倒すと受付に背を向け、その後ろで立ち尽くしている白斗に気付いてため息をついた。 「……あの馬鹿に後でお前から伝えておけ」 ふと出入り口の方を向くと、先ほど紫苑と話していた白衣の男がちょうど室内から出ていくところだった。 「奴の処遇が決まった」 それが審査官(テスター)を指しているという事に気付いたのは、数秒後の事だった。 「今朝の時点で『異能を奪う異能』により、ゲンガーコロニーを永久消去。その後どうなるかまでは俺も知らん」 「……」 大して同情などといった感情は湧かず、だがだからと言って自業自得だと思う蔑みすらも無かった。 「ついでに秋津が一連の事件を数日隠していた件についてだが、もちろんそれは本部にもバレた。もとよりここ数日の経過全てを連絡係、先ほどの奴に伝えておかなければならなかったのでな」 そう言い、紫苑は視線を先ほどの白衣の人物が出ていった出入り口の扉へと向ける。 「本来ならそれ相応の(・・・・・)罰則規定があるが……支部全構成員の総意で、続投が決まった。あの馬鹿に、死ぬまで感謝しろと伝えておけ」 ふとそこで、白斗の脳裏にほんのわずかな違和感がよぎった。 「……総意(・・)?」 眼前の苦虫を噛み潰した顔をしている彼もまた、この支部の一員であるわけで。 「……。全員、だ。俺も含めてな。そう、さっきの奴に頼み込んでおいてやった」 彼は苦虫を噛み潰したような表情で顔を一層歪めると、面倒そうに大きく息を吐き出した。 白斗が恐る恐る受付の方を振り返ると、秋津さんはちょうど受付前に集まった学生集団に便利屋業務を振り分けているところだった。それからその学生集団は一斉に部屋を飛び出していき、室内に残ったのはほんの数人だけとなる。 もし今の紫苑の言葉が彼女に聞かれていたら余計な事を囃(はや)し立て、すぐさまぶん殴られるであろう事は容易に想像がついた。 「……これでいいのだろう?」 そう付け加えるようにして告げると、紫苑は食べ残しやごみが散らかった室内に舌打ちし、ついでに受付でパソコンに何かを打ち込んでいる秋津さんに対してより一層強く舌打ちし、出入り口の扉を蹴破るようにしてどこかへと消えてしまった。 授業中に睡眠時間をいくらか確保したとはいえ、眠気はなかなか去ってくれず、寄宿舎に帰るのも面倒だった白斗がソファに横になろうとした途端、制服のポケットが振動し始めた。 ポケットに手を突っ込み振動源を取り出すと、受付に座る自身の上司が満面の笑みで手を振ってきた。 「……」 何やら嫌な予感がしつつも、取り出した携帯電話を開く。 新着メール一件あり。 タイトル『今日の極秘任務! 緑の襲来!』